結果発表

11月17日(日)に表彰式及び受賞パーティーが開催され、
和やかな雰囲気の中、各受賞者に賞状および賞金が授与されました。

表彰式

11月17日にKKRホテル東京「丹頂の間」(東京都千代田区)で行われた表彰式では、グランプリ・準グランプリ・HINOKIYA賞・優秀賞・審査員特別賞には賞状と賞金が、入選には賞状が贈られた。受賞者は作品のプレゼンテーションを披露し、審査員が講評を述べた。その後の受賞パーティーでは、受賞者と審査員らが作品について語り合うほか、同じ志を持った学生同士が交流を図った。

  • 写真:表彰式の様子1
  • 写真:表彰式の様子2
  • 写真:表彰式の様子3

選考経過

今回は161点の応募があり、応募者の所属は大学36校、大学院18校、高専・専門学校などが17校だった。地域は北海道から九州まで、全国に及んだ。

一次審査として5人の審査員はそれぞれ応募者の提出物(説明文、平面図、外観パース図など)をチェック。①テーマの「やわらかい木造の住まい」を具体化しているか②独自性があるか③人が住む家として実際に建設できるか④環境に配慮した工夫があるか――の四つの審査基準に基づいて30点満点で採点した。

9月27日に開催された最終審査会は複数の審査員が推した19点、1人の審査員が推した26点の計45点を中心に選考が進んだ。全作品を台上に並べ、見直した後に各審査員が推す作品と理由を述べ、投票でグランプリ候補を絞り込んだ。そのうえで議論を行い、グランプリと準グランプリを決定した。再度、全作品の見直しを行い、残った作品と併せて再び討議を行い、HINOKIYA賞、優秀賞、審査員特別賞、入選の各賞を順次選出した。

審査講評

審査員:手塚貴晴
建築家/(株)手塚建築研究所 代表/東京都市大学 教授
手塚 貴晴Takaharu Tezuka

予想以上に柔らかいというニュアンスの表現は難しかったようです。これは今の建築教育に木造の力学があまり取り入れられていないためであるように思います。木造はとても自由で、創意工夫が可能な材料なのですが、世の中の当たり前の工法から出られていません。現在木造は目覚ましい進歩を遂げています。学生さんたちはもっとアンテナをはって情報収集してもらいたいと思います。その一方で、完成度は上がりました。レベルが上がっているということは自分の知っている範囲で解いていることの結果でもあります。ライフスタイルに対する言及が多かったのは良いことです。特にグランプリと準グランプリについては、人の入った情景が容易に思い浮かびました。

審査員:粕谷淳司
建築家/カスヤアーキテクツオフィス 代表/関東学院大学 准教授
粕谷 淳司Atsushi Kasuya

今年のテーマとして設定された「やわらかさ」という概念をどのように解釈し、具体的な住宅のデザインとして表現するかが問われたコンテストでした。グランプリを受賞した具志堅さんの案は、木材が備えているさまざまな強さ(圧縮やせん断に耐える頑丈さと、曲げに耐えるしなやかさ)を使い分け、一見奇想天外に思える「吊り下げる」というアイデアも用いていままでにない住空間を提案している点に特徴があり、木材を原料とする「紙」に着目した点も高く評価されました。準グランプリを受賞した三浦さん、大橋さんの案は、伝統的な入母屋の形状を参照しつつ、エキスパンドメタルで屋根を覆うことで、やわらかな光に包まれた多くの半外部空間を提案している点が評価されました。優秀賞の3作品とその他の入選作も含め、上位に残った応募案は「やわらかさ」をどのように捉えるかについて、それぞれよく考えられており、全体として見応えのある作品が多かったと思います。

審査員:黒石いずみ
青山学院大学 教授
黒石 いずみIzumi Kuroishi

今回の「柔らかい」木造住宅というテーマに対して多くの学生の皆さんがとても興味深い提案をしてくださったことに感謝します。素材としての柔らかさだけでなく、構造や住みこなしの自由まで、多様な解釈が示されましたが、その中に紙や布、メッシュや薄いシートなど建築の原点と言われる「編むこと」の表現を試みた作品があったことを嬉しく感じました。建築デザインのコンセプトを考える時に歴史は形態の知識を与えてくれるだけでなく、建築の在り方・人間との関わり方を普遍的な次元で考える手がかりとなります。「編むこと」を19世紀の建築家ゴットフリード・ゼンパーは建築の構築的性格の原点として挙げています。彼がこの定義をする時に、建築の人の体を包み天候から守る役割、動物の巣のように家族を営む場を作る役割を示唆していたことは現代においても重要です。今後も建築の概念の深読みや歴史を学ぶことで木造建築の可能性を拓いていただけることを期待しています。

株式会社ヒノキヤグループ 取締役
荒木 伸介

「やわらかい木造の住まい」というテーマはとても難しいテーマです。「やわらかさ」を物理的(空間的)に捉えて形状をやわらかくしたもの。布のように木で建物をやわらかく包んだもの。木のやわらかさを表現するために敢えて硬質な石やコンクリートなどの素材と組み合わせ質感を強調したもの。建物の経年変化や可変性を時間の経過で捉えやわらかくまとめたもの。そして心象的(感覚的)なやわらかさ。等々様々な解釈がありました。また、家として単体の提案ではなく降り注ぐ光・吹き抜ける風・熱(暖かさ)といった自然との繋がりを意識した提案が多かったのも今回の特徴だと思います。応募の中には精神的な癒し・ストレスから解放される方法として明るさより暗さを求めるなど、今までの家に求められる常識に捕らわれない現代的な発想にも面白さを感じました。そんな難しいテーマに学生の皆さんが果敢に挑みたくさんの応募を頂けたことに心より感謝いたします。

毎日新聞社 学芸部 編集委員
永田 晶子

「やわらかい木造の住まい」は具体・抽象の両面から捉えたり、考えたりすることができます。難解で奥が深いテーマなので、学生さんは荷が重いのではないかと正直思っていました。杞憂でした。丁寧に命題を咀嚼し、自らの問題意識や日常感覚に引きつけた上で、行き届いた提案に落とし込んだ力作が多かったと思います。昨年にひき続き、学生の皆さんの木造に対する関心と知識の深まりを実感しました。